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メカ分析:止まらないメルセデスのアップデート、細部の作り込みに見ごたえあり

2016年6月15日

 メルセデスはF1第7戦カナダGPに2種類のリヤウイングを持ち込んだ。ひとつはオーソドックスなタイプ(下写真)で、メインプレーン〜フラップの深い角度からダウンフォースを重視していることが窺える。もうひとつはスプーン型(トップ写真)で、中央部は深く、両サイドは浅いのが特徴。スプーン型のリヤウイングはモンツァでも見られる仕様で、ある程度のダウンフォースを確保しながら、ドラッグを抑えたい場合に投入される。


メルセデスW07


 エンジンカウルの陰に隠れるため、リヤウイング中央寄りは翼端板寄りほどクリーンかつスピードのある空気は流れてこない。だから、見た目の角度ほどにはダウンフォースを発生しないし、裏腹の関係にあるドラッグも発生しない。対照的に、翼端板寄りはスピードのある空気が豊富に流れるので、角度は浅くても相応のダウンフォースを発生する。このエリアを浅くしたほうが、ドラッグ軽減効果は大きい。そのバランスをカナダのようなコースに合わせて最適化したのがスプーン型なのだろう。


 チームは、オーソドックスなタイプとスプーン型を比較し、どちらがラップタイム短縮に効果があるかデータを検証したうえで、ドライバーのフィーリングを加味し、予選〜決勝レースに投入する仕様を決めていくことになる。カナダではルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグともに、予選〜決勝ではオーソドックスなタイプを使っていた。


メルセデスW07


 さらにリヤを注視してみると、モンキーシートが変更されていることに気づく。もはや「モンキーシート」と呼べるような形態ではないが、排気のエネルギーを利用した空力デバイスであることに変わりはない。カナダGPに特化したデザインというより、シーズンを通じたアップデートの一環として投入したのだろう。


メルセデスW07


 つづいてフロントセクションを見てみると、その繊細かつ大胆な作りに目を奪われる。第5戦スペインGPでウイングステーのスパンを細くした改良型ノーズを投入したが、狙いは、ノーズとフロントウイングに挟まれた空間を大きくとり、リヤに向けてクリーンかつ大量の空気を流すためである。規定いっぱいまで後退させたスリムなノーズも、リヤに流す空気のためだ。


 ノーズの後退にともなってステーの位置も後退しているが、こうなると厳しいのは、最大で数百キロにも達するフロントウイングの荷重を支える強度を確保することだ。脱落しないようにするのはもちろん、狙いどおりの性能を発揮してもらうためには妙な振幅などしないでもらいたい。外見からは確認できないが、ノーズ/ステー/ウイングにかけては、CFRP材に金属のインサートが配されている。大きな荷重を受けるウイング部も同様だ。


 フロントウイングは、着色された中央寄りのエリアはダウンフォース発生を受け持ち、無着色(カーボン地)の翼端板側はダウンフォースを発生させつつ、フロントタイヤの接地面が起点となって発生する乱流を制御する目的を受け持っている。


メルセデスW07


 その様子を横から見ると、まずノーズ下面にあるSダクトの空気取り入れ口が目に付く。流れの速いノーズ上面の空気が下面の空気を引っ張ることで、フロントセクションの空力性能を高めるアイデアだろうか。制動時のスタビリティを高める効果があるとも伝わるが、どうだろう。ノーズ上面にあるSダクトの出口形状も変更を受けているようだ。


 フロントウイングに目を移すと、フラップのトレーリングエッジがギザギザした処理になっており(赤い矢印の部分)、ここで縦渦を発生させていることがわかる。いわゆるボルテックスジェネレーターだ。スロットギャップを抜けた空気が流れたいように流れるのではなく、空力効率を高める方向に制御する狙いだ。局所的にはドラッグ増になるが、車両全体としてはパフォーマンスが上がるため、とくにメルセデスは積極的に用いている。


 ノーズ下からサイドポンツーンにかけての空力処理も見ごたえがある。サスペンションアーム類の下にあるターニングベーンは整流効果よりも、むしろそれ自体でダウンフォースを発生させるデバイスだ。ウイングを90度倒して用いていると考えればよく、跳ね上がったターニングベーンの裏側、すなわちノーズの下が負圧域になってダウンフォースを発生させる。メルセデスの前身であるホンダ・レーシングが熱心に開発していた領域だ。


 その後方にあるデバイスは、後ろ下がりになった形状から、空気の流れを下向きに変え、フロントで一度仕事をした空気をフロア下などに流し、もうひと仕事させる狙いだろう。


 サイドポンツーン周辺の空力処理も複雑さを増している。定番となって久しいアンダーカット(下部の絞り込み)は、アンダーカットがない形状に比べて、このエリアでのダウンフォース発生量が増すため、欠かせない造形だ。


 フロアの前端外側には折り返しがあり、この折り返し部分にはフラップが付いているのが確認できる。ディフューザーが横を向いて付いているようにも見えるが、機能的にもディフューザーと似たような働きをし、このエリアで少なくないダウンフォースを発生する。


 サイドポンツーンに張りつくように配されたバージボードは短冊状に分割されているが、フロントウイングのフラップに配されたボルテックスジェネレーターと同じで、フロア下やサイドポンツーン側面に向けて、空気の流れを緻密にコントロールするためだろう。


 最後にフロントブレーキドラムを見て締めくくりとしよう。ブレーキユニットの冷却とホイールを通じて外側に排出される空気の制御を受け持つダクトが整然と配されており、隙がない。こうした緻密な空力処理は従来レッドブルが得意とするところだったが、お株を奪うような見事な作り込みだ。これだけ手の込んだ、しかも精度の高い作り込みを見せつけられてしまうと、他を圧倒する速さにも納得せざるを得ないというものだ。


 ちなみに、10年前に100個程度だったカーボン製ブレーキディスク(ブレンボ製)のベンチレーションホールが1000個以上になって数年が経過する。放熱面積を増やして冷却効率を高めると同時に、軽量化を実現する技術だ。ホイールナットを固定する、ねじ山は3つしかないが、これは極端に短いピットストップ時間を支える技術のひとつである。



(Text:世良耕太(Kota Sera))




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